今週のお題「好きな小説」
大学の時、雑誌「ダ・ヴィンチ」の書評で知ったのが「姑獲鳥の夏」でした。早速書店で買って読み、ただならぬ衝撃を受けました。それ以来、ずっと「姑獲鳥の夏」は好きな小説です。もちろん京極夏彦の他の作品も好きですけどね。
京極作品の中でも、この「姑獲鳥の夏」は話がしっかりとまとまっているというか、美しいなといつも感じます。妖怪の名前がついていますけど、事件としては普通の人間が起こしている事件なわけです。でも、ある瞬間にふと妖怪が宿る瞬間が読者である私にも伝わってくる。その瞬間にゾクゾクします。いわゆる「魔が差す」って言うやつの「魔」が垣間見える瞬間ですね。
その一瞬のために、物語のすべての要素が緻密に組み立てられていて、どの要素をなくしてもストーリーとして上手く完結しないような気がします。一見無駄なように見える話が、結末にきちんと繋がっているんですね。その緻密な世界観を味わってもらいたいと思って、人にあらすじを説明してお勧めしようとするんですが、あらすじを上手くまとめられたことはただの一度もありません。最終的に「とにかく読めば分かるから、騙されたと思って読んで」とごり押すことになるんです。
あらすじどころか、ストーリーの細かい所をよく忘れるので、毎年梅雨の終わり頃になると読み返したりします。ちょうど物語の中の季節に合わせて読むのがまたなんとも臨場感的なものがあっていいんですよね。もう30年近くに渡ってなんどか読んできましたが、未だに色あせない大好きな小説です。